電波の能率的な利用を図るためには、無線設備が技術基準に適合するほか、その操作が適切に行われなければなりません。また、無線設備を操作するためには専門的な知識及び技能が必要ですから、誰にでもそれを行わせることはできません。
電波法は、国際的な取決め等に準拠して、有資格者制度を採っており、無線局の無線設備の操作は、原則として一定の資格を有する無線従事者でなければ行ってはならないことを定めています(法39条)。なお、無線局に主任無線従事者が選任されている場合は、その主任無線従事者の監督を受けることにより、無資格者であっても、無線設備の操作を行うことができます(法39条)。
無線従事者とは、「無線設備の操作又はその監督を行う者であって、総務大臣の免許を受けたものをいう。」と電波法で定義されています(法2条6項)。ここで、この条文は接続詞「又は」を用いていますが、前の部分の「無線設備の操作を行う者」は、電波法40条に定める一定の資格を有する無線従事者であり、後の部分の「その監督を行う者」は、後に説明する主任無線従事者を指しています。
さて“無線設備の操作”という言葉がよく出てきます。これは、具体的にはどういったことを表しているのでしょうか。“操作”の語彙的解釈は、機械や道具などを動かすこと、あるいは、やりくりをすることになっていますが、無線設備の操作もまったくそのとおりです。
そして、これを無線局の機能上から割り振っても、観念的に「通信操作」と「技術操作」との二つに分けた受け止め方をもって、法令上の用語としているようです。
しかし、例えば、大電力の送信機に電源を投入することと、携帯無線機のスイッチを入れることは、作業的には同じようなものですが、これが通信操作か技術操作かの区別は困難であるし、大電力→技術操作、携帯機→通信操作の割り切り方も、もう一つしっくりこないものとなるでしょう。
これを分かりやすく例示すれば、電鍵や送受話器を最適な状態で使用するための調整動作等は通信操作のジャンルに、そして、この通信操作に対応して通信が有効・確実に設定するための、いわば電波の質などに影響を及ぼす調整作業等を技術操作のジャンルに振り入れ、これらの類似(拡大)行為はその延長線上にある、としておいてまず間違いはないものと思われます。
このように記したのは、無線従事者の資格と操作の範囲は表裏一体のものであり、その操作の範囲を定めることについて、上述した区分と無線設備の規模(⇒大電力、小電力、周波数帯)、無線設備の設置条件(⇒船舶、航空機)、設定回線(⇒国際通信、衛星通信、モールス通信)、利用領域(⇒陸上、海上、航空、宇宙)等々の区分が複雑に絡み合って、それぞれ適切な資格が設けられているからです。なお、アマチュア無線局は、資格者一人がすべての操作を行うので、操作の区分等は設定されておりません。またメーカー等による無線設備の製造、修理、取替え等は、直接的に通信操作とは関係ないことから、無線従事者資格を要しないこととされているわけです。無線従事者の区分と資格(電波法40条)は下記の表のとおりです。
区 分 | 資 格(右かっこ内は資格の略称) |
---|---|
無線従事者(総合) |
第一級総合無線通信士〔GMDSS対応資格〕 (一総通) 第二級総合無線通信士 (二総通) 第三級総合無線通信士 (三総通) |
無線従事者(海上) |
第一級海上無線通信士〔GMDSS対応資格〕(一海通) 第二級海上無線通信士〔GMDSS対応資格〕(二海通) 第三級海上無線通信士〔GMDSS対応資格〕(三海通) 第四級海上無線通信士 (四海通) 第一級海上特殊無線技士〔GMDSS一部対応〕(一海特) 第二級海上特殊無線技士 (二海特) 第三級海上特殊無線技士 (三海特) レーダー級海上特殊無線技士 (レーダー特) |
無線従事者(航空) |
航空無線通信士(航空通)
航空特殊無線技士(航空特) |
無線従事者(陸上) |
第一級陸上無線技術士(一陸技) 第二級陸上無線技術士(二陸技) 第一級陸上特殊無線技士(一陸特) 第二級陸上特殊無線技士(二陸特) 第三級陸上特殊無線技士(三陸特) 国内電信級陸上特殊無線技士(国内電) |
無線従事者(アマチュア) |
第一級アマチュア無線技士(一アマ) 第二級アマチュア無線技士(二アマ) 第三級アマチュア無線技士(三アマ) 第四級アマチュア無線技士(四アマ) |
この23種類の資格には、それぞれに操作可能な範囲があります。その範囲を決めているのが「電波法施行令第3条」で、皆さんの目標上あるいは就職希望等を考える上で、その内容は細かく知っておいた方が好ましいと思われます。規定の全文を表にしておきますので、こちらより目を通してください。
「電波法施行令第3条の操作及び監督の範囲」を見て、資格や操作の相互の絡み合いが、おおまかにでも頭の中に入り込めばよいのですが、一般的に言われる“法律の文章は難しすぎる”のとおり、読んだだけではなかなか絡み合った筋糸ははっきり見えてこないもののようです。
相互の組合せを略図で示せば、次のようになります。
※ 一定資格を持つことにより、その資格より棒線で結んだ下に掲げる資格の操作範囲に属する操作は、自動的に操作範囲に入ることを示します。
例えば、一総通は一陸技以外のものはすべて操作できること、二陸技は、その資格のもののほか一陸特、二陸特、三陸特、レーダー特、四アマの操作ができることを示します。
主任無線従事者について、その性格なり任務なりといったものの要点を、簡単に紹介します。
令和3年度の一年間で無線従事者の免許を取得した人は80,640人であり、これを資格別分野でみると、特殊無線技士が56,983人と全体の約七割以上となり、以下、アマチュア無線技士が18,653人、通信士が2,778人、陸上無線技術士が2,226人となっています。特殊無線技士(特に陸上分野)において取得者が多いのは、地域利用も含めた5Gの普及促進、防災対策の推進、多様な分野での利用が増えているドローンの操作等が背景にあるものと思われます。