第1章 無線従事者の世界

1-1 無線従事者制度

  電波の能率的な利用を図るためには、無線設備が技術基準に適合するほか、その操作が適切に行われなければなりません。また、無線設備を操作するためには専門的な知識及び技能が必要ですから、誰にでもそれを行わせることはできません。

  電波法は、国際的な取決め等に準拠して、有資格者制度を採っており、無線局の無線設備の操作は、原則として一定の資格を有する無線従事者でなければ行ってはならないことを定めています(法39条)。なお、無線局に主任無線従事者が選任されている場合は、その主任無線従事者の監督を受けることにより、無資格者であっても、無線設備の操作を行うことができます(法39条)。

1-2 無線従事者とは

  無線従事者とは、「無線設備の操作又はその監督を行う者であって、総務大臣の免許を受けたものをいう。」と電波法で定義されています(法2条6項)。ここで、この条文は接続詞「又は」を用いていますが、前の部分の「無線設備の操作を行う者」は、電波法40条に定める一定の資格を有する無線従事者であり、後の部分の「その監督を行う者」は、後に説明する主任無線従事者を指しています。

  さて“無線設備の操作”という言葉がよく出てきます。これは、具体的にはどういったことを表しているのでしょうか。“操作”の語彙的解釈は、機械や道具などを動かすこと、あるいは、やりくりをすることになっていますが、無線設備の操作もまったくそのとおりです。

  そして、これを無線局の機能上から割り振っても、観念的に「通信操作」と「技術操作」との二つに分けた受け止め方をもって、法令上の用語としているようです。

  しかし、例えば、大電力の送信機に電源を投入することと、携帯無線機のスイッチを入れることは、作業的には同じようなものですが、これが通信操作か技術操作かの区別は困難であるし、大電力→技術操作、携帯機→通信操作の割り切り方も、もう一つしっくりこないものとなるでしょう。

  これを分かりやすく例示すれば、電鍵や送受話器を最適な状態で使用するための調整動作等は通信操作のジャンルに、そして、この通信操作に対応して通信が有効・確実に設定するための、いわば電波の質などに影響を及ぼす調整作業等を技術操作のジャンルに振り入れ、これらの類似(拡大)行為はその延長線上にある、としておいてまず間違いはないものと思われます。

  このように記したのは、無線従事者の資格と操作の範囲は表裏一体のものであり、その操作の範囲を定めることについて、上述した区分と無線設備の規模(⇒大電力、小電力、周波数帯)、無線設備の設置条件(⇒船舶、航空機)、設定回線(⇒国際通信、衛星通信、モールス通信)、利用領域(⇒陸上、海上、航空、宇宙)等々の区分が複雑に絡み合って、それぞれ適切な資格が設けられているからです。なお、アマチュア無線局は、資格者一人がすべての操作を行うので、操作の区分等は設定されておりません。またメーカー等による無線設備の製造、修理、取替え等は、直接的に通信操作とは関係ないことから、無線従事者資格を要しないこととされているわけです。無線従事者の区分と資格(電波法40条)は下記の表のとおりです。

無線従事者の区分と資格

区 分資 格(右かっこ内は資格の略称)
無線従事者(総合) 第一級総合無線通信士〔GMDSS対応資格〕 (一総通)
第二級総合無線通信士 (二総通)
第三級総合無線通信士 (三総通)
無線従事者(海上) 第一級海上無線通信士〔GMDSS対応資格〕(一海通)
第二級海上無線通信士〔GMDSS対応資格〕(二海通)
第三級海上無線通信士〔GMDSS対応資格〕(三海通)
第四級海上無線通信士 (四海通)
第一級海上特殊無線技士〔GMDSS一部対応〕(一海特)
第二級海上特殊無線技士 (二海特)
第三級海上特殊無線技士 (三海特)
レーダー級海上特殊無線技士 (レーダー特)
無線従事者(航空) 航空無線通信士(航空通)
航空特殊無線技士(航空特)
無線従事者(陸上) 第一級陸上無線技術士(一陸技)
第二級陸上無線技術士(二陸技)
第一級陸上特殊無線技士(一陸特)
第二級陸上特殊無線技士(二陸特)
第三級陸上特殊無線技士(三陸特)
国内電信級陸上特殊無線技士(国内電)
無線従事者(アマチュア) 第一級アマチュア無線技士(一アマ)
第二級アマチュア無線技士(二アマ)
第三級アマチュア無線技士(三アマ)
第四級アマチュア無線技士(四アマ)

1-3 各資格者が無線設備を操作できる範囲

  この23種類の資格には、それぞれに操作可能な範囲があります。その範囲を決めているのが「電波法施行令第3条」で、皆さんの目標上あるいは就職希望等を考える上で、その内容は細かく知っておいた方が好ましいと思われます。規定の全文を表にしておきますので、こちらより目を通してください。

1-4 資格と操作の相互の組み合わせ

  「電波法施行令第3条の操作及び監督の範囲」を見て、資格や操作の相互の絡み合いが、おおまかにでも頭の中に入り込めばよいのですが、一般的に言われる“法律の文章は難しすぎる”のとおり、読んだだけではなかなか絡み合った筋糸ははっきり見えてこないもののようです。

  相互の組合せを略図で示せば、次のようになります。

  ※ 一定資格を持つことにより、その資格より棒線で結んだ下に掲げる資格の操作範囲に属する操作は、自動的に操作範囲に入ることを示します。

  例えば、一総通は一陸技以外のものはすべて操作できること、二陸技は、その資格のもののほか一陸特、二陸特、三陸特、レーダー特、四アマの操作ができることを示します。

1-5 主任無線従事者

  主任無線従事者について、その性格なり任務なりといったものの要点を、簡単に紹介します。

  • 無線設備の操作は、原則として無線従事者の資格を有していなければ行うことができないが、一定の条件を満たした主任無線従事者の監督を受ければ、無資格者であっても、無線設備の操作ができる
  • 主任無線従事者は、無資格者の操作を監督するという重要な職務を行うことから、監督に必要な無線従事者の資格を有し、かつ、一定期間その実務経験を有する者のみが就任できるものであること
  • 主任無線従事者は、無線局の免許人によって選任され、かつ総務大臣に届出がなされたことによって、その職務を行うことができるものであること
  • 主任無線従事者の職務の特徴点は、 ① 無資格者の操作の監督を行うこと ② 操作を行う無資格者に対する訓練を計画し実施すること ③ 職務の遂行における必要な事項に関して免許人に意見を述べること等であること
  • 主任無線従事者が監督を行うことができる操作の範囲は、主任無線従事者が有している資格の操作の範囲内(モールス通信や人命安全に関わりのある通信操作等を除く)に限られること
  • 免許人は、主任無線従事者に対して一定期間ごとに、総務大臣の行う講習(操作の監督に関するもの)を受けさせなければならないこと ―― となります。言わば、一般の無線従事者に課される職務に対し、それ以上の職務が主任無線従事者になることによって課せられてくるので、その資格自体の社会的責任は、より高いものとなっているといえます。

1-6 一年間における無線従事者免許の取得者数

  令和3年度の一年間で無線従事者の免許を取得した人は80,640人であり、これを資格別分野でみると、特殊無線技士が56,983人と全体の約七割以上となり、以下、アマチュア無線技士が18,653人、通信士が2,778人、陸上無線技術士が2,226人となっています。特殊無線技士(特に陸上分野)において取得者が多いのは、地域利用も含めた5Gの普及促進、防災対策の推進、多様な分野での利用が増えているドローンの操作等が背景にあるものと思われます。

1-7 無線従事者を必要とする職場

 さて、前述のように資格別の無線従事者の操作範囲は分かりましたが、一体どんな職場で活躍しているのでしょうか。  資格別にその概要を紹介しましょう。

  第一級総合無線通信士:操作範囲からも分かりますように、通信士としては最高の資格であり、通信操作についてはオールマイティですから、その職場も広く、主なものには、次のようなものが あります。 ① 国際固定通信や大電力固定通信などの無線局 ② 船舶局と通信するために陸上に開設した無線局(海岸局)(海岸局にも漁業用、海上保安用、ポートラジオなどがあります。) ③ 国際航路に就航している船舶の無線局(船舶局) したがって、その就職先には、海運会社、大電力漁業無線局(地方公共団体、組合などの開設)、電気通信事業会社(NTT、KDDI等)、海上保安庁、国土交通省(管制技術官)、警察庁、都道府県の防災無線担当などがあります。 また、第一級総合無線通信士として認められた知識技能を利用して、中学校、高校、高専、各種学校などの教員となる人、無線機器メーカーなどに就職する人もいます。

  第二級総合無線通信士:第一級総合無線通信士に比べて独自で操作できる範囲はやや狭くなっていますが、第一級総合無線通信士の指揮下であれば、まったく同等にモールス符号による通信操作ができることになっています。したがって、その就職先は、第一級総合無線通信士と同じようです。

  第三級総合無線通信士:その操作範囲からも分かりますように、漁船の船舶局や漁業用海岸局に従事する人が多く、したがって、その就職先は、漁業会社、漁業協同組合などがあります。 この資格も、第一級、第二級総合無線通信士の指揮下では、第二級総合無線通信士の操作範囲の一部が操作できますし、単独での操作範囲内にある無線設備(局)も数多くあります。

  第一級、第二級、第三級海上無線通信士:この資格は、GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System:海上における遭難及び安全に関する世界的な制度)の導入に対応して設けられた資格です。 GMDSS に対応する船舶は、衛星通信設備(インマルサット)、デジタル選択呼出し、印刷電信設備、衛星 EPIRB(非常用位置指示無線標識)、無線電話設備等を備えて、モールス電信を使用しないで陸上やほかの船舶と通信を行うこととなっています。これらの無線設備の操作を行うことができる資格が、この一、二、三級の海上無線通信士です。したがって、これから船舶通信士になるにはどうしてもこれらの資格が必要となります。現在、GMDSS 対応の設備は逐次普及してきておりますのでGMDSS 対象船舶や海岸局等が主な職場となります。

  第四級海上無線通信士:操作範囲からも分かりますように、船舶の無線電話局が主な従事場所となりますので、その職場は、小型漁船(電話船のみ)、小規模漁業用海岸局などとなります。船舶無線の工事会社でもこの資格の取得を勧めています。

  第一級海上特殊無線技士:この資格は、特に国際 VHF 波で通信を行う場合に必要であり、商船または漁船に乗組む船長、航海士、水先案内人、海上保安庁の職員が、主にこの資格を持って無線設備を操作しています。 また、船舶地球局の無線設備も限定ではありますが、操作ができ、GMDSSにも一部対応しています。

  第二級海上特殊無線技士:この資格は、漁船や沿海を航行する内航船に設けられた船舶局、または、VHF による小規模海岸局等の無線設備を操作するために必要であり、航海士や小型船の船長がこの資格を持って運用しています。

  第三級海上特殊無線技士:この資格は、 27MHz 帯1ワット DSB(漁船)や、40MHz 帯漁業通信システムなど沿岸小型漁船用の無線電話、プレジャーボートなどに開設する5ワット以下の無線局の設備を操作するためのものです。

  レーダー級海上特殊無線技士:この資格は、商船などが装備した大型レーダー、レーダーのみを備えた船舶、沿岸監視用レーダーなどの無線設備を操作するための資格で、船長や航海士が取得して従事しています。

  航空無線通信士:航空機に開設した無線局(航空機局)やこれら無線局と通信するために地上に開設された無線局(航空局)の無線設備を専門に操作する資格です。しかし、航空機局と航空局の通信は、まず、その多くは航空機の航行に関する専用通信ですので、操縦士いわゆるパイロットと航空交通管制官(国土交通省航空局の特別職員)が航空無線通信士の資格を併せ持って行っています。したがって、この航空無線通信士だけの資格で就職することは、なかなか難しく、航空機を運航する会社が、業務用に航空機と通信するために開設した地上の航空局で従事できれば、というところです。 そのような理由から、就職先は航空会社、機体整備会社、グランドサービス会社、航空測量会社、その他、航空機を運航して諸事業を行う会社などです。

  航空特殊無線技士:航空運送事業用でない、例えば、測量あるいは農薬散布、報道などのために使用する航空機、または自家用航空機の無線局の設備を操作するための資格です。この操作もパイロットがこの資格を所持して行っています。

  第一級陸上無線技術士:無線通信の技術操作に関しては最高の資格ですから、その職場の範囲も広く、主なものは次のとおりです。 ① ラジオ・テレビの放送局(送信所) ② 国際通信を行う大電力無線局(送信所) ③ 大型海岸局の送信所 ④ 無線標識局 ⑤ 小電力局であっても、その送信装置の仕組み上から、高度の知識技能が要求される無線局 したがって、就職先は NHK(日本放送協会)、民間放送会社、電気通信事業会社(KDDI、NTT等)、国土交通省航空局、海上保安庁、気象庁、警察庁、都道府県庁などです。 そのほか、一総通と同じように、中学校及び高等学校などの教員、メーカーの技術者になる人もいます。

  第二級陸上無線技術士:操作範囲は、空中線電力において第一級陸上無線技術士の範囲を下まわるものの、ほかは第一級陸上無線技術士と変わりなく、同じ操作が可能ですので、活躍できる職場も就職先も第一級陸上無線技術士とあまり変わりないようです。

  第一級陸上特殊無線技士:これは一つの周波数の電波に、いくつもの信号を同時に乗せて通信する多重無線設備を使用した固定局等の無線設備を操作するための資格です。 これらを多く設置しているところは、公衆通信を行う電気通信事業会社(KDDI、NTT等)、JR、NHK、放送会社、電力会社、防衛省、国土交通省、警察庁、各県庁など、多数あります。

  第二級陸上特殊無線技士:この資格は、パトロールカー、各種無線サービスカーなどに設置されている陸上を移動する形態の無線局、または、VSAT(ハブ局)の無線設備を操作するための資格です。運転士、サービスマン等がこの資格を所持して無線機を操作しています。

  第三級陸上特殊無線技士:タクシー無線の基地局、防災関係無線局、物流関係無線局などの無線設備が操作できる資格です。また、最近では、ドローン操縦のために取得する人も増えてきているようです。

  国内電信級陸上特殊無線技士:国内通信を行う固定局などにおいて無線電信による通信操作が行える資格です。しかし、この資格の活躍する場は少なくなっており、現在では防衛省において回線が設定されているのが、主なところです。

1-8 無線従事者から別世界への展開

 無線従事者の資格を取得して就職し、その職場で無線利用の実地業務に携わって一定の年数を踏みますと、その資格により中学校及び高等学校の“教員免許”を取得することができる、いわば特例的な扱いが生じてきます。  教育職員免許法施行法第2条及び教育職員免許法第6条1項の規定に基づくもので、資格、経験によって免許の種類が、次のようになります。
  1. 第一級総合無線通信士又は第一級陸上無線技術士の資格を有する者
    ➡中学校及び高等学校の助教諭の臨時免許状
  2. 第二級総合無線通信士又は第二級陸上無線技術士の資格を有し、2年以上無線通信に関し、実地の経験(文部科学省令で定める学校の教員としての経験を含む。)を有する者で技術優秀と認められるもの(教員としての経験を要件とする者にあっては良好な成績で勤務した旨の実務証明責任者の証明を有するものとする。)
    ➡中学校及び高等学校の助教諭の臨時免許状
  3. 第一級総合無線通信士又は第一級陸上無線技術士の資格を有し、3年以上無線通信に関し、実地の経験を有する者で、技術優秀と認められるもの
    ➡中学校教諭の二種免許状及び高等学校教諭の一種免許状教科は中学校が「職業」、高等学校が「工業」となります。
* なお、免許状は都道府県の教育委員会が授与します。そのため各都道府県により教員免許状の申請書類や適性検査の方法が異なっていますので、志望される方は各都道府県の教育委員会(教育庁)教員免許担当に直接お尋ねください。

  無線従事者から学校の先生への展開 ―― これも一つの大きな歩みでしょう。